2017年の中国国内における乗用車販売(総販売台数2471万台)では日米独の外資系自動車メーカーが販売シェア上位を占めますが、こと新エネ乗用車(販売台数58万台)については、乗用車全体に占める販売シェアはまだ2%台に留まっているものの、メーカー別に見れば中国系自動車メーカーの独壇場となっています。
但し、新エネルギー乗用車(以下、新エネ乗用車)と呼ばれるものは、EV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、ならびにFCV(燃料電池車)を指します。
なお、日系自動車メーカーが得意とするHV(ハイブリッド車)は新エネ乗用車の対象外です。
1.中国政府による新エネ乗用車シフト政策の背景
中国の新エネ乗用車へのシフト構想は今に始まった話ではなく、2012年6月に公布された自動車産業政策「省エネと新エネ車産業育成計画(2012〜2020年)」に基づいて推し進められてきたものです。
中国は諸外国に比べ新エネ乗用車シフトへの取組は後発でしたが、@新エネ乗用車購入に対する税金免除、A中央政府および地方政府による新エネ乗用車に対する購入補助金制度、B新エネ乗用車へのナンバープレート優先割当などの政策実施が奏功し、新エネ乗用車販売台数では2015年から3年連続で世界全体の市場において第1位となっています。
2.ダブルクレジット管理規制の概要
2019年1月から導入される2種類の関連規制は、この新エネ乗用車の販売を一層加速させるものと推察されます。
新たな乗用車生産・輸入規制は2017年9月に公布された「新エネ乗用車クレジット管理弁法(以下、NEV:New Energy Vehicle クレジット管理規制)」および「乗用車企業平均燃費4クレジット管理弁法(以下、CAFE:Corporate Average Fuel Efficiency クレジット管理規制)」のいわゆるダブルクレジット管理規制と呼ばれるものです。
これにより、中国で自動車を生産・輸入する自動車メーカーおよび輸入車販売企業は、電気自動車をはじめとする新エネ乗用車の一定台数以上の生産・輸入と、生産・輸入する乗用車の燃費基準の向上が義務付けられることになります。
本規制は、米国のカリフォルニア州他9つの州にて施行されているZEV(Zero Emission Vehicle)規制をベンチマークとしています。乗用車を生産もしくは輸入する企業が規制対象者となり、新エネ乗用車を生産・輸入すると規定の算出方法に基づいた「クレジット」と言われるポイントが付与されます。
付与されたクレジットが各企業のクレジット達成目標値を上回れば、余剰NEVクレジットとして他社へ売却し利益を得るインセンティブとなります。逆に下回ることになると、不足する分のNEVクレジットを他社から補填購入するなどの対応が必要となります。
つまり自動車メーカーや輸入車販売企業は、各年度の乗用車生産・輸入台数の増加に比例して、新エネ乗用車の生産・輸入台数を増やしていかなければならなくなります。
なお、中国工業情報化部より発表された2017年度のデータによると、2017年度時点で2019年度のクレジット達成目標値をクリアしている自動車メーカーおよび輸入車販売企業は、規制対象128社に対して約3割にとどまっている状況です。
中国の新エネ乗用車出荷台数の上位は、既にBYDや北京汽車、上海汽車などの中国系自動車メーカーが独占しています。更には、潤沢な資金を有するアリババやテンセント、百度などの大手IT関連企業から出資を受けた新興の新エネ車メーカーも勃興しています。一部の日系自動車メーカーは、中国市場における新エネ乗用車生産の遅れを取り戻すべく、矢継ぎ早に新エネ乗用車の投入を発表し、量産化に舵を切っている状況です。
また、2018年4月には自動車メーカーに対する外資規制緩和も発表されました。今までは、外資系自動車メーカーが中国で製造会社を設立する場合、@外資企業の出資比率は50%以内、且つA同一外資企業が設立できる合弁企業は2社まで
と規制されていましたが、新エネ車生産の工場設立に限り規制が緩和されました。
この外資規制緩和を受けて、フォルクスワーゲンやBMWは、出資比率が50%を超える3社目となる新エネ車工場設立の許可を取得しています。
3.日系自動車関連メーカーへの影響について
このように自動車産業の大変革期を迎えている中国では、自動車メーカーのみならず、サプライチェーンを形成する関連メーカーも変化に対応する必要が出てきています。
日本の中小企業庁が発表する「中小企業白書」によると、従来型のガソリン車の部品点数を3万点と仮定した場合、電気自動車の普及により基幹となるエンジン部品や駆動・伝達部品など約4割の部品が不要になると想定されています。
中国内に集積するガソリン車関連の日系部品メーカーは、中長期的な経営戦略の見直しを迫られます。
一方、新エネ乗用車の中核となる車載用リチウムイオン電池や電動化技術に強みを持つ日系メーカーには大きなビジネスチャンスが到来しています。また中国自動車市場では、大手サプライヤーと新エネ乗用車に適合する技術を有する異業種企業が、既存の縦型サプライチェーンの垣根を越えて提携戦略を組む動きも出てきています。
なお、大手自動車メーカーに既存のガソリン車関連の部品を提供していた日系自動車関連メーカーには、今まで培ってきた技術を活かした新エネ乗用車向けの商品開発力や営業提案力が求められています。
更に中国の自動車産業では、新エネ乗用車の普及に加え、自動運転技術やAI技術を駆使した交通のネットワーキング化、自動車の高度情報端末化が進められています。これまで中国の自動車産業と関係の薄かったインフラ関連やIT関連等の日系企業にも新たなビジネスチャンスが訪れています。
posted by bintian at 10:12|
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